実を言いますと、このお話は先代の愛犬(お嬢)が急逝してから僅か1週間後の出来事になります。もし私の愛情表現が言葉として足りなかった場合、それは「ペットを軽んじていないか?」「そんな簡単に次を飼う決断は有り得ない」「お嬢にも失礼だ」と批判の的に成り得るかもしれません。
ですが、其処は断固として異論を唱えさせていただきます。
私はお嬢のことが本当に大好きでした。こうして今も、ただキーボードで「お嬢」と名前を打つだけで涙が溢れ出て止まらなくなるほどです。急逝から2日で火葬、それから2~3日はスマホの中の動画や写真を観直す日々。当たり前だった生活の中に、もうお嬢が居ないのです。
しばらく、私たち夫婦は想像以上の空虚感に襲われていました。「いつか訪れること」とどんなに覚悟していようと、悲しみはその数倍以上の波で心身を蝕んできます。ただソファの上で座っている毎日、思い出しては悲しみで動けない、呼んでも来ない、イビキも聴こえない。
そしてお嬢の居ない家で生活して1週間が経つ頃、私たち夫婦の思いは酷似していました。
もう一度、お嬢の「質量を感じたい」、お嬢の「体温を感じたい」、お嬢を「抱っこしたい」。私よりも奥さんの思いが強かったかもしれません。何者の気配も無いリビングでふと泣き出す奥さんの心は、早くも疲弊が限界に達し始めていました。
私は奥さんの要望に応えるべく、気休めにしかならないとは思いましたが、以前からよく仕事帰りに立ち寄っていた知る人ぞ知る恵比寿の某有名ペットショップへ連れていくことにしました。動物たちの賑やかさと触れ合える点では、此処が一番だと思いましたので。
ただ想定外だったのは…この日、其処に、まさかのキャバリアが居たことです。
私は数年前、行きつけと言えるくらいこのペットショップを頻繁に覗いていましたが、一度もキャバリアが居たことはありませんでした。しかし、この気まぐれで足を運んだ日に限って、僅か生後3ヶ月の、痩せっぽちで毛ヅヤも何処か頼りないキャバリアのパピー(幼犬)が居たのです。
見かけた瞬間から泣きそうになっている私たち夫婦に気付くと、人懐っこそうに近寄ってきました。お嬢に出会った時は生後2ヶ月くらいでまだまだ手のひらサイズでしたから、それと比べればこれでもかなり大きいほう。
ウインドウから出してもらい、目的であった「抱っこしたい」を叶えた瞬間。
…奥さんはもう涙が決壊寸前でした。
普段お世話してくださっている女性店員さんが、生後間もない頃の写真を持ってくると、それがまた出会った頃のお嬢とソックリ! 奥さんが完全にオちたのは言うまでもありません。
それでも、私たちなりに「即決」はしませんでした。
お嬢が居なくなって、11年ぶりに出来た夫婦だけのゆったりとした時間。それがもう無くなってしまうことになっても良いのか? お嬢の代わりに新たな家族を迎えるという判断は、ただ悲しみを倍増させるだけになってしまわないか? あと、シンプルに高値!
(コロナ禍ではペット需要が高まっており、相場が10年前の倍以上に膨れ上がっています。ちなみにこの幼犬の価格は、お嬢の3倍以上の価格でした)
しかし、私たち夫婦の間では、何処かしら「飼って連れ帰る!」という方向で意思が決まっていたのかもしれません。一度抱っこした幼犬を再びウインドウに送り返し、バイバイと手を振って別れるのはそもそも苦手ですから。
それに何と言っても、このタイミングで出会わせてくれたのはお嬢のような気がしてならなかったからです。都合良く「生まれ変わり」や「憑依してるな!?」とまでは言いませんが、出会いによって運命もまた導かれることを重々経験してきた人生です。今まで一度もキャバリアを見なかったこのペットショップに、偶然今回に限ってキャバリアが居たことには、何かしらの意味があるのでしょう。
お嬢を飼った時と同様に、段ボールに入れて連れ帰りました。
奥さんの腕に抱かれ、オシッコを拭き取られる♀(女の子)です。ペットショップのウインドウ内とは違う、初めての広い空間に戸惑いがあります。まだ目がキリっと吊り上がり気味で、警戒心を持っている様子がうかがえます。
「お嬢」の名付け親は私でしたが、今回は奥さんに名付けてもらうことにしました。とても悩んでいましたが、悩みに悩んだ挙句、非凡なセンスを発揮しました。「寿(ことぶき)」ちゃんに決定です。呼び名は「コトたん」かな?
知っていますか? 犬の名前は母音が「あ」「う」「お」多めのほうが良いのです。
母音が「い」「え」の言葉は、犬の耳だと聞き取りづらいのです。
食欲は旺盛です。全く遠慮がありません。痩せっぽちの細々とした頼りない身体ですから、コレはもうちょっと太らせないといけないな、と思いました。急いで手芸お得意の奥さんが作ったスヌードを付け、お嬢が使っていたお椀で自分からガツガツと食べています。この光景だけでまた泣けそうです。
(お嬢は自分からお椀に口を付けて食べることなど、殆どありませんでした。私たちの手から直接でなければ、口にモノは入れない性格でした)
見てください、このドヤっぷり。
警戒心を持って鋭く吊り上がっていた目が、だんだん優しくなってきました。むしろタレ目に。
食後はお嬢と同じく、R-1ヨーグルトを飲みます。
お嬢は私の手のひらに注いだものをぺろぺろ…でしたが、コトたんは直です。ワイルドです。
ということで、最後まで大人しかったお嬢とは全く逆の、フードファイターのような食欲と弾丸のような暴れっぷり(少なくとも家の中では)が特徴のコトたんが、私たち夫婦の新たな家族として仲間入りしました。
これから色々な経験をしていくと共に、またキャバリア界隈のコミュニティで皆様との交流機会も訪れるでしょうが、是非とも可愛がってあげてください。先代の愛犬「お嬢」のことを愛してくださった皆様へ、今度は「寿(ことぶき)」がご挨拶に参ります。
▼YouTubeにも時々、出演させます。